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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1110号 判決

控訴人 花井京二 外1名

被控訴人 山野裕子 外5名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

原判決主文第1ないし第6項は仮に執行することができる。

事実

申立

(一)  控訴人ら

「1原判決を次のとおり変更する。(1)被控訴人山野裕子は控訴人両名に対しそれぞれ金86万2072円を支払え。(2)被控訴人三原勇雄は控訴人両名に対しそれぞれ金86万2072円を支払え。(3)被控訴人久米紀代子は控訴人両名に対しそれぞれ金86万2072円を支払え。(4)被控訴人大西恵介は控訴人両名に対しそれぞれ金96万8306円を支払え。(5)被控訴人三原宗介は控訴人両名に対しそれぞれ金97万1863円を支払え。(6)被控訴人三原伸は控訴人両名に対しそれぞれ99万8828円を支払え。2訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求める。

(二)  被控訴人ら

控訴棄却の判決を求める。

主張

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示中「第二当事者の主張」の項記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決4枚目表1行目の「株式の」から2行目の「右評価額は」までを「財産中、金銭債権及び現金以外の財産の請求時における評価額は別紙遺産目録の評価額(一)欄記載のとおりである。なお、そのうち株式の評価額は」と改め、10行目の「に対し、」の次に「遺産分割により取得した」を加える。

(二)  同4枚目裏6行目の「三原紀代子」を「久米紀代子」と、5枚目表10行目の「○○商工株式会社」を「○○商事株式会社」とそれぞれ改め、5枚目裏2行目の「○○セメント株式会社の」の次に「株式の」を加え、3行目の「その時期に関する評価方法」を「上場株を評価すべき時期を昭和56年6月16日とする点」と改める。

(三)  同6枚目表1行目の「右両会社の実権者浩介」から2行目の「その際」までを削除し、3行目の「に譲渡した」を「が譲り受けた」と、4行目の「回収」を「支払」とそれぞれ改め、5行目の「にあて、」の次に「これによつて」を加える。

(四)  同7枚目裏3行目の「価幣価値」を「貨幣価値」と改め、8枚目裏10行目の「被告ら」の次に「の間における分配」を加える。

(五)  同10枚目表10行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。「五再抗弁に対する認否再抗弁事実は否認する。」

(六)  原判決別紙遺産目録のうち、「2相続人被告恵介が取得する財産」の番号(13)及び「3相続人被告宗介が取得する財産」の番号(11)に対する評価額(1)として各「12、453、062」とあるのを、前者については番号(13)、(14)を合わせたものに対する、後者については番号(11)、(12)を合わせたものに対する評価額(1)12、453、062にそれぞれ改め、「5相続人被告伸が取得する財産」の番号(9)、(10)を合わせたものに対する評価額(1)として「12、453、062」を加える。

証拠 〔略〕

理由

一  請求原因1、2(一)(被控訴人恵介、同宗介の取得する○○倉庫に対する貸付金債権及び被控訴人伸の取得する○○商事株式会社に対する貸付金債権の額の点を除く。)、3の各事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第4号証の1によれば、右○○倉庫に対する貸付金の額は控訴人らの主張額を下回るものではないこと、右○○商事株式会社に対する貸付金の額は210万円であることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

二  成立に争いのない乙第2、第3号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被控訴人らは、控訴人らが英一から生前贈与を受けた旨主張するので、控訴人らの具体的相続分の有無を明らかにするため、ここでまず右主張について検討を加える。

前掲乙第2、第3号証、成立に争いのない甲第2、第3号証、第4ないし第6号証の各1、2、第9号証の1、2、第10号証、乙第8、第9号証の各1、2、原審及び当審証人花井広子(1部)、原審証人渡辺正一の各証言、原審における控訴人花井京二、被控訴人三原宗介各本人尋問の結果、並びに、三原英一の署名押印については成立に争いがなく、原審証人花井広子の証言により田尾征四郎名下の印影が真正な印章によつて顕出されたものであることが認められ、以上の事実と文書の体裁、内容及び前掲甲第3号証とに照らし文書全体が真正に成立したものと認められる乙第1号証を総合すると、以下の事実が認められ、原審及び当審証人花井広子の証言中この認定に反する部分はその余の前掲証拠に照らし措信し難く、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

1  広子は、昭和15年1月ごろ英一と知り合つて肉体関係を結び、引続き昭和25年ごろまで英一のいわゆる妾であつたもので、その間に英一との間に控訴人両名をもうけた。昭和25年ごろ、広子は内田高男と懇ろな仲になつたことが原因で英一と別れ、控訴人らは英一の妻マキヨの許で養育されていたところ、昭和27年7月ごろ広子は小田修を通じ英一、マキヨに対し控訴人らを引き取りたい旨を申し入れ、関係者が話し合つた結果、同年8月、広子と英一との間に、広子が控訴人らを引き取ることを前提として、英一は控訴人らのためにその安住のための店舗付住宅を30万円の予算で買い求め、かつ、控訴人らが広子に託して収益を挙げさせるための営業資金5万円を控訴人らに贈与すること、広子は右不動産と営業資金を管理利用し、これによる収益と自己の内職等による収入をもつて控訴人らを養育することが合意された。

2  右合意に基づいて、英一は同年9月末ごろまでに東京都目黒区○○×丁目××××番地所在の借地権(30坪)付の居宅兼店舗(家屋番号同町×××番××、建坪6.75坪)を口銭共30万4250円で買い求め、10万円を支出してこれに5坪を増築し、更に2万4685円で造作等を、3万円で商品陳列棚を設備したうえで右建物を控訴人らに贈与し、これを管理すべき広子に対して引渡を了した。そのほか、英一は、営業資金として前記合意にかかる5万円に更に5万円を加えた10万円を控訴人らに贈与し、広子に交付した。なお、その際、建物、営業設備及び右営業資金の保管にはさしあたり広子の叔父である田尾征四郎の承諾の下に同人の名義を借り、将来控訴人らの名義に改めること、広子は控訴人らの財産を自ままに処分しないこと、田尾征四郎は右建物が控訴人らのために保全されるよう善処すること、英一は控訴人らの生活、教育に干渉しないこと等が併せて合意された。

3  その後広子は控訴人らや内田高男とともに前記建物に居住し、右建物については、前記合意に基づいて昭和27年10月13日田尾征四郎のため所有権取得登記がされ、前記合意に基づく約5坪の増築に加えて更に約5坪の増築がなされたが、どのような事情からか昭和28年7月8日付で右増築後の建物につき新たに東京都目黒区○○○×丁目××××番×家屋番号同町×××番××の居宅(建坪16.54坪)として登記簿が開設され、広子のため所有権保存登記がされた。

4  広子は、右所有権保存登記後間もないころから相次いで前記建物に抵当権の設定を重ね、昭和31年に抵当権者である高松ひさ代が右建物を管理するようになつて控訴人らは右建物から他に転居した。その後右建物は競売にかかり、昭和34年4月4日に渡辺正一によつて競落された。

右に認定したところによれば、英一は、昭和27年9月ごろ控訴人らに対し、前記建坪6.75坪の建物、その敷地30坪の借地権、増築費用10万円、造作等の費用5万4685円、営業資金10万円を生計の資として贈与したものである。控訴人らは右は広子に対する慰謝料の支払に代えて給付されたものである旨主張するが、右給付がされたのは広子が英一と別れてから2、3年のうちであり、かつ、広子が控訴人らを引き取る際のことであつたこと、別れる原因が広子の男性関係にあつたこと、建物が当初田尾征四郎の所有名義とされたことからしても、右主張のような事実は到底認めることができない。

控訴人らは右贈与契約が合意解除されたと主張するが、本件全証拠によつてもこれを認めることはできない。

四  そこで控訴人らの具体的相続分を算出する。具体的相続分の算定は相続開始時の評価によるべきところ、前掲乙第4号証の1、原本の存在・成立に争いのない乙第10号証、原審証人清田圭之輔の証言及び弁論の全趣旨によれば、右評価は、原判決別紙遺産目録の評価額(2)欄記載のとおりであり(ただし、上場株式の価額は東京証券取引所における昭和48年4月7日の最終値による。なお、非上場株式のうち○○○建材及び○○倉庫の株式の評価については、前掲乙第10号証及び原審証人清田圭之輔の証言によれば、昭和52年2月から4月にかけて○○倉庫所有土地を売却し、その代金をもつて被控訴人恵介、同宗介、同伸の相続した右両会社の株式を○○倉庫が買い取る代金の支払並びに右被控訴人らが相続した英一の右両会社に対する退職金債権及び貸金債権の弁済にあてることになり、その結果右被控訴人らは右株式の代金としてそれぞれ137万9871円を受領したことが認められるところ、右以外に右株式の評価を認定する根拠となりうるような証拠はないから、右価額をもつて相続開始時における右株式の価額と認めるのを相当とする。後記の本件価額支払請求時における右株式の価額についても同様である。そして、右売買の対象とされなかつた、三原浩介及び大島涼が遺産分割により取得した右両会社の株式も、右両時点において右と同等の価額を有したものと認めるべきである。これに対し、その余の非上場株式の価額についてはこれを認定する的確な証拠がないが、ここでは一応控訴人らに有利に控訴人ら主張の評価額(1)が相続開始時及び価額支払請求時におけるその価額であるとの前提の下に計算を進める。)、その合計額は1億0497万2196円である。被控訴人らは、相続により取得した債権中に回収不能のものがある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

次に、控訴人らが生前贈与を受けた財産の相続開始時における価額を検討すると、前記のとおり控訴人らは昭和27年9月ごろ前記建坪6.75坪の建物及びその敷地30坪の借地権並びに現金25万4685円の贈与を受け、右建物及び借地権の当時の価額は30万4250円であつた。右建物については、本件全証拠によつてもその相続開始当時における価額を認定することができない。借地権の価額については、これを直接に認める証拠はないが前掲乙第1号証によれば5坪の増築に10万円を要していることからすると、前記30万4250円のうち少なくとも15万円は借地権の対価であつたものと推認することができる。そして弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第12号証の1ないし3、第14号証によれば、右借地は用途地域としては住宅地に属するところ、昭和11年9月の価額を100とした場合の6大都市住宅地価額指数は昭和27年9月6379、昭和48年3月59万5988であるから、これにより相続開始時における右借地権の価額を算出すると1401万4453円となる。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第13号証の1、2によれば、昭和9年から11年までの消費者物価を1とした場合における昭和27年及び昭和48年の消費者物価指数はそれぞれ266.1及び719.5であることが認められるから、前記現金25万4685円を相続開始時の貨幣価値に換算した価額は68万7635円となる。以上の結果、生前贈与の合計額は1470万2088円である。

控訴人それぞれの法定相続分は16分の1であるから、その具体的相続分は次の算式によつて0.001225と算出される。

1億0497万2196円+1470万2088円 = 1億1967万4284円

1億1967万4284円×16分の1 = 747万9642円

747万9642円-1470万2088円×2分の1 = 12万8598円

12万8598円÷1億0497万2196円 = 0.001225

五  民法910条の規定による遺産分割後の価額支払請求における価額の算定は、請求時の時価によるべきところ、前掲乙第3号証、第4号証の1、第10号証、成立に争いのない甲第1号証の1、2、原審証人清田圭之輔の証言及び弁論の全趣旨によれば、請求時における相続財産の時価は別紙遺産目録評価額(3)欄記載のとおりであることが認められる。

右価額評価に関し減殺要素がある旨及び本件価額支払請求が信義則に反する旨の被控訴人らの主張に対する当裁判所の判断は、原判決17枚目裏7行目から18枚目表8行目までに説示されたところと同一であるから、これを引用する(ただし、原判決18枚目表7、8行目の「相続債務は算定に組み入れるべきではなく、」を削除する。)。

以上によれば、請求時における遺産総額は1億0818万7986円であり、これに対して各控訴人が受領すべき金額は次の算式により13万2530円である。

1億0818万7986円×0.001225 = 13万2530円

また、浩介、被控訴人恵介、同宗介、同伸が取得した遺産の価額が全遺産の価額中に占める割合は次のとおりである。

浩介4482万5706円÷1億0818万7986円 = 0.414

恵介1479万1313円÷1億0818万7986円 = 0.137

宗介1500万0740円÷1億0818万7986円 = 0.139

伸1646万9009円÷1億0818万7986円 = 0.152

そして、各控訴人は、前記13万2530円を遺産分割の当事者たる各相続人に対し法定相続分の割合又は現実に遺産分割によつて取得した財産の価額の割合によつて請求できることになるが、右のいずれによるとしても、各控訴人の請求できる金額が原判決において認容された金額を超えないことは明らかである(ただし被控訴人らは原判決に対して不服を申し立てていないのであるから、原判決を控訴人らの不利益に変更することはできない。)。

六  よつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法95条、89条、93条を、原判決中請求の一部を認容した部分に対する仮執行の宣言につき同法375条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島一郎 裁判官 加茂紀久男 梶村太市)

〔参照〕原審(東京地 昭56(ワ)7593号 昭60.3.26判決)

主文

一 被告山野裕子は、原告両名に対し、それぞれ金2万1152円を支払え。

二 被告三原勇雄は、原告両名に対し、それぞれ金2万1152円を支払え。

三 被告三原紀代子は、原告両名に対し、それぞれ金2万1152円を支払え。

四 被告大西恵介は、原告両名に対し、それぞれ金2万2776円を支払え。

五 被告三原宗介は、原告両名に対し、それぞれ金2万3090円を支払え。

六 被告三原伸は、原告両名に対し、それぞれ金2万3404円を支払え。

七 原告らのその余の請求を棄却する。

八 訴訟費用は10分し、その9を原告らの、その余を被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の主張

一 請求の趣旨

1 被告山野裕子は、原告両名に対し、それぞれ金86万2072円を支払え。

2 被告三原勇雄は、原告両名に対し、それぞれ金86万2072円を支払え。

3 被告三原紀代子は、原告両名に対し、それぞれ金86万2072円を支払え。

4 被告大西恵介は、原告両名に対し、それぞれ金96万8306円を支払え。

5 被告三原宗介は、原告両名に対し、それぞれ金97万1863円を支払え。

6 被告三原伸は、原告両名に対し、それぞれ金99万8828円を支払え。

7 訴訟費用は被告らの負担とする。

8 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一 請求の原因

1 昭和48年4月7日被相続人三原英一(以下「英一」という。)が死亡し、別紙相続人目録記載の者7名が英一の相続人となつた。

2 (一) 同年9月5日、右相続人ら7名間で別紙遺産目録各相続人が取得する財産の欄記載のとおり遺産分割がなされた。

(二) 同遺産目録記載の株式の請求時の評価額は、同目録評価額(1)欄記載のとおりである。右評価額は、上場株については昭和56年6月16日現在のもの、その他の株式については次項に述べるものを除き英一死亡当時の価額である。

(三) 被告大西恵介(以下「恵介」という。)、同三原宗介(以下「宗介」という。)、同三原伸(以下「伸」という。)は、同53年2月28日、同年4月9日の2日間にわたり、○○倉庫株式会社(以下「○○倉庫」という。)に対し、○○○○建材株式会社(以下「○○○○建材」という。)の株式及び○○倉庫の株式をそれぞれ金1245万3062円で売却したので右価額が評価額となる。

3 右分割により遺産を取得した三原浩介(以下「浩介」という。)は同54年12月27日死亡し、その子である被告山野裕子(以下「裕子」という。)、被告三原勇雄(以下「勇雄」という。)、被告三原紀代子(以下「紀代子」という。)3名が浩介の相続人となりそれぞれ3分の1の割合にて浩介の遺産を取得した。

4 原告両名は、英一と花井広子(以下「広子」という。)との間において、いわゆる婚外子として出生したものであるが、英一に対し死後認知請求訴訟を提起して勝訴判決を得、右判決は、同51年8月15日確定した。

5 よつて、原告両名は、前記相続人らのうち、大島涼、三原哲治、小川悦子を除く者を被告として、原告両名の各16分の1の相続分に基づき、被告らの各取得財産につき遺産分割後の価額の支払を求める。

二 請求の原因に対する認否

1 請求の原因1の事実は認める。

2 (一)同2(一)の事実のうち、被告恵介の○○倉庫に対する貸付金の額同宗介の○○倉庫に対する貸付金の額、同良の○○商工株式会社に対する貸付金の額を除き、認める。

(二) 同2(二)の事実のうち被告恵介の○○合成株式会社の株式の評価額、同宗介の○○セメント株式会社の評価額を除き認める。但し、その時期に関する評価方法は争う。

(三) 同2(三)の事実のうち、被告恵介、同宗介、同伸が○○倉庫に対し、○○○○建材及び○○倉庫の株式を売却したことは認めるが、その余の事実は否認する。同51年2月から4月にかけて、○○倉庫及び○○○○建材の株主は、株主総会の議決を経て、○○倉庫の所有地を売却し、その売却代金をもつて、当時経営危機に立ち至つていた○○○○建材の債務を弁済するとともに、右両会社の実権者浩介と対立していた被告恵介らが浩介及び右両会社と絶縁し、その際被告恵介らが所持、相続した右両会社の株式を○○倉庫に譲渡した代金及び被告恵介らが相続した貸付金、退職金の回収にあて、右両会社の実権者浩介と対立していた被告恵介らが浩介及び右会社と絶縁することとなつた。株式の売却代金は総額3733万4186円となつたところ、必要経費は1679万4097円であつた。売却した株式総数は、○○○○建材5万1000株、○○倉庫1100株であり、うち、被告恵介、同宗介、同伸が相続により取得していた株式は合計で、○○○○建材6000株、○○倉庫120株であるから、全株式売却代金のうち、被告恵介ら3名が相続した株式の売却代金相当額は、同56年12月の関係者間覚え書による○○○○建材株式21パーセント、○○倉庫株式79パーセントとする合意にもとずき、別表(1)の算式によつて得られる。よつて、相続した株式売却代金純取得額は合計227万7782円である。

3 同3の事実は認める。

4 同4の事実は知らない。

5 同5は争う。

三 抗弁及び被告の主張

1 英一は、同27年9月23日、原告両名が同人の実子であることを認め、原告両名に対し、生前贈与として次の財産を贈与した。

(一) 目黒区○○○×ノ××××の宅地30坪の借地権付店舗建坪7坪 当時の買入価額30万4250円

(二) 右店舗増築費用10万円

(三) 造作費用2万4685円

(四) 備品什器代3万円

(五) 営業資金10万円

右のうち、(一)の店舗及び借地権の価額30万を同48年の時価に引き直せば3251万3400円である。また、その余の現金給付金額25万9000円を同48年の貨幣価値に引き直せば69万9300円となる。右合計額は3321万2700円である。右は原告らの相続分に十分相当するものである。

2 遺産分割後の価額支払請求については、相続人が実質的に取得した利益の限度で支払義務を負うと解すべきである。

(一) まず、相続人各自が相続取得した価額からそれぞれの相続税納付額を控除した価額は次のとおりである。

浩介3211万5200円

被告恵介985万2100円

同宗介975万0100円

大島涼864万1100円

被告伸845万5100円

三原哲治112万4723円

小川悦子158万0100円

(二) 右価額中回収不能により零と評価すべき財産は次のとおりである。

浩介○○○○株式会社株式216万円

○○○○建材株式24万2000円

未収利息、配当金21万6000円

被告伸○○商事株式会社に対する貸付金210万円

被告恵介、同宗介、同伸が相続により取得した財産中、退職金各250万円、○○○○建材株式各2000株、○○倉庫株式各40株、貸付金被告恵介につき335万5500円、同宗介333万3000円については、被告が前に主張したとおりの経緯で回収がはかられ、その結果、株式の代金として277万7782円、退職金と貸付金は合計983万8500円が回収された。合計1211万6282円の被告らの内訳は次のとおりである。

被告恵介516万4760円

同宗介514万2260円

同伸180万9260円

(三) 以上の結果、浩介および被告恵介、同宗介、同伸が現実に取得した相続財産の価額は次のとおりである。

浩介2949万7200円

被告恵介807万9440円

同宗介797万7240円

同伸458万2240円

右計算表は別表(2)のとおりである。

(四) 浩介は、前記取得額を生前ほとんど費消してしまい、わずかに○○建材株式会社株式2100株を残したにすぎない。その1株当り価額は同54年12月27日浩介死亡当時500円であるから、その合計額105万円を被告勇雄、同裕子、同紀代子において取得しているにすぎない。右被告らに帰属することのない祖父英一の相続につき、右取得額を超え価額支払義務を負わせることは、公平の原則に反し、原告らの同被告らに対する本件価額支払請求権の行使は、信義則に反し許されない。

三 抗弁に対する認否

抗弁1の事実は否認する。被告主張の財産のうち、(一)、(四)は原告らに対してでなく、原告らの母親である広子に対して慰藉料として与えられたものである。(二)、(三)、(五)を受領したことはない。

四 再抗弁

仮に、抗弁1に掲げられた財産が原告らに対し生前贈与されたものであるとしても、英一は、同31年4月ころ、広子に対し、抗弁1(一)記載の建物より立ち退くよう要求し、広子はこれに応じたところ、その後間もなく、英一より生前贈与契約を取り消す旨の申し出を受け、原告らの法定代理人たる広子はやむなくこれに合意した。

第三、証拠〔略〕

理由

一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二 請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。したがつて相続開始当時の相続財産は別紙遺産目録各相続人が取得する財産の欄記載のとおりである。

三 成立に争いのない乙第2、第3号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実が認められる。

四 具体的相続分算定の都合上抗弁1及び再抗弁について検討する。

前掲乙第2、第3号証成立に争いのない甲第2、第3号証、第4ないし第6号証の各1、2、乙第8、第9号証の各1、2、証人花井広子、同渡辺正一の各証言、原告三原京二、被告三原宗介各本人尋問の結果及び右各証拠により真正に成立したものと認められる乙第1号証によれば以下の事実が認められる。

1 広子は、昭和15年1月ころ英一と知り合つて肉体関係を結び、同23年ころまで継続し、その間に英一の子である原告両名をもうけた。同23年ころ広子が他の男性とつき合つたことが原因で広子は英一と別れ、原告らは英一の妻マキヨの許で養育されていたところ、同27年7月ころ、広子は小田修を通じ右三原マキヨに対し原告らを引き取りたい旨の申し入れをした。そこで、広子の叔父である田尾征四郎が交渉にあたり、その結果同年9月22日ころ広子と英一との間に、次のとおりの合意が成立した。

(一) 英一は、原告らへの遺産として原告らが安住するための店舗付住宅を金30万円の予算を以て買い求め、ならびに原告らが広子に託して収益させるための商売資金5万円を原告らに贈与することを約束し、広子はこの不動産と商売資金を管理利用しその利益と自己の内職等による収入を以て原告らを養育することを約束する。

(二) 右に基づき、英-は、目黒区○○○×丁目××××番地に存し、広子の選定に係る借地権30坪付建坪7坪の店舗住宅を口銭共30万4250円で買い求め、これに金10万円を支出して5坪を増築し造作等2万4685円、商品陳列柵等3万円を設備し、この増額分とも原告らに贈与して引き渡し、商売資金は約束金額のほかに金5万円を増額して計金10万円を原告らに贈与し管理者広子に引渡しを了した。

(三) 家屋及び商売設備ならびに資金は、原告らが所有するに至る期間広子の叔父田尾征四郎の名義を借りて登録する。

(四) 広子は原告らの財産を自儘に処分しないことを約束する。

(五) 田尾征四郎は、原告らのためにこの不動産が保全されるよう善処することを承諾した。

(六) 同27年度分として課せられる不動産税ある場合英一においてこれを支払い、その後のものは広子において負担する。

(七) 原告らが長期に亘り就病するかまたは外科手術し多額の医療費を要し広子の会計においては養生させ得ない場合田尾征四郎の要求により英一はその医療費を負担する。

(八) 英一は、広子の希望に基づき、原告の生活、教育に関し関与せず、かつ、広子の生活に交渉をもたない。

(九) 英一は、広子の生活開始時期である同27年8月より、同年12月末日まで、原告らの生活費を負担し、金額1か月につき1万2000円を毎月15日かぎり田尾征四郎を経て支払う。

(一○) 今後英一、広子は直接交渉をせず、すべて田尾征四郎を通じて行う。

2 右の合意内容にある目黒区○○○×丁目××××番地上の建物は、同所所在家屋番号×××番××、木造瓦葺平家建居宅兼店舗建坪6坪7合5勺であり、同27年10月13日田尾征四郎名義に所有権移転登記がなされた。右建物は、前記合意にあるようにまず5坪増築され、さらに5坪弱増築されたのち、どのような事情からか、同28年7月8日、目黒区○○○×丁目××××番×所在家屋番号×××番の××、木造瓦葺平家建建坪16坪5合4勺として新たに登記され、同日広子のために所有権保存登記がなされた。

3 広子は、右建物において当初は糸や毛糸を売る仕事をしていたが後増築して川辺という床屋に家を貸した。ところが、半年程して家賃の支払が滞つたことや、広子が飲食店に手を出して借金するなどして、抵当権の設定が相次ぎ、右建物を抵当権者である高松ひさ代が管理するようになつて、同31年ころ原告らは右建物を出て、世田谷区○○町に転居した。しかしながら、広子は借金返済ができず、右建物は結局競売となり、同34年5月18日、当時の賃借人渡辺正一が金4万5000円程で競落し所有権を取得した。

前掲各証拠のうち、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。原告は、乙第1号証の成立を争うところ、前掲各証拠によれば、乙第1号証は、原告らの提起した死後認知訴訟において、原告らが浩介より交付を受けたものであり、広子の署名押印は広子のしたものではないことが認められるが、その記載内容が具体的詳細であり、相当程度広子の希望が容れられていること、目黒区○○○×丁目××××番地上の建物について記載どおり現実に田尾征四郎名義に登記されていること、前掲乙第3号証によれば原告京二は、内容について英一より聞かされていたことなどの事実からすると、英一と広子との間の合意内容を書面化したものであると認められる。

右認定の事実によれば、英一は、同27年9月ころ、原告らに対し、目黒区○○○×丁目××××番地所在家屋番号××番××、木造瓦葺平家建店舗兼居宅22平方メートル31及びその敷地の借地権30坪と増築費用10万円、造作等の費用5万4685円及び商売資金10万円を生計の資として贈与したことが認められる。原告らは、右は広子に対する慰藉料であると主張するが、広子が英一と別れた数年後に、広子が原告らを引き取る際の話し合いであること、別れる原因が広子の男性関係であること、建物の登記名義が当初田尾征四郎となつていることからして、右主張の事実は認められない。

前掲各証拠によるも、贈与契約取消の事実は認められず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

五 原告らの具体的相続分を算出する。具体的相続分の算定は、相続開始時の評価によるべきところ、成立に争いのない乙第4号証の1、原本の存在及び成立に争いのない乙第10号証、証人清田圭之輔の証言及び弁論の全趣旨によれば、右評価は別紙遺産目録評価額(2)欄記載のとおりである。合計額は、1億0534万2068円である。

次に原告ら両名が生前贈与を受けた財産の相続開始時の評価額につき検討する。前記認定の事実によれば、原告らは、同27年9月ころ目黒区○○○×丁目××××番地所在家屋番号×××番××、木造瓦葺平家建店舗兼居宅22平方メートル31及びその敷地の借地権30坪及び現金25万4685円の贈与を受け、右店舗兼居宅及び借地権の同27年9月当時の価額は、30万4250円であつた。右のうち、右店舗兼居宅は、増改築がなされ、かつ相続開始当時まで20余年が経過しているから相続開始当時の価額を算定することができない。借地権の価額は、前掲各証拠によるも明らかではないが、前掲乙第1号証によると5坪の増築費用として10万円を要していることが認められ、右事実からすると、30万4685円のうち、少くとも15万円を借地権価額と推認することができる。弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第12号証の1ないし3、第14号証によれば、6大都市住宅地の市街地価額指数は、同27年9月6、379、同48年3月595,988であるからこれにより相続開始時の時価を算出すると、1401万4453円となる。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第13号証の1、2によれば、同27年の消費者物価指数は266.1、同48年の消費者物価指数は719.5であるから、現金25万4685円の相続開始時の価額は、68万7649円となる。合計額は、1470万2102円である。

よつて、原告らの具体的相続分はそれぞれ次のとおりである。

1億0534万2068円+1470万2102円 = 1億2004万4170円

1億2004万4170円×16分の1 = 750万2760円

750万2760円-1470万2102円×2分の1 = 15万1709円

15万1709円÷1億0534万2068円 = 0.00144

六 遺産分割後の価額のみによる支払請求における価額の算定は、請求時の時価によるべきところ、その評価額は、前掲乙第3号証、第4号証の1、第10号証、成立に争いのない甲第1号証の1、2、証人清田圭之輔の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、その結果、別紙遺産目録評価額(3)欄記載のとおりとなる。即ち、同52年2月から4月にかけて、○○○○建材の債務を整理するため、○○倉庫所有土地を売却し、あわせて被告恵介、同宗介、同伸の○○○○建材及び○○倉庫の株式を○○倉庫に売却する際の売買代金と右被告らが相続した英一の右各会社からの退職金及び貸付金の回収にあてることとなつた。土地売却代金から経費等を差し引いた金額は、4717万2686円となり、被告恵介が受領した金額は1099万6850円であるが、うち相続した株式の売却代金は137万9871円、退職金及び貸付金の回収額が440万5500円、被告宗介が受領した金額は1427万0217円であるが、うち相続した株式の売却代金は137万9871円、退職金及び貸付金の回収額が438万3000円、被告伸が受領した金額は511万3079円であるが、うち相続した株式の売却代金は137万9871円、退職金及び貸付金の回収額は105万円であつた。したがつて、右株式の売却代金額を評価額としてさしつかえない。

被告は、相続財産中回収不能なものがある旨主張するが、回収不能であることを認めるに足る証拠はない。また、被告勇雄、同裕子、同紀代子に対する請求は、浩介が大部分を費消し、右被告らが受けた利益は僅少であるから信義則に反すると主張するが、まず、価額のみによる支払請求は、現実の遺産分割とは異り、いわば価値の返還を求めるものといえるから費消済との抗弁はなり立たず、次に右被告らは遺産分割の当事者ではないが、共同相続人である浩介の負つている価額返還義務を相続していると解されるから右被告らに対する請求も可能であり、更に原告らにとつては浩介分についてはその相続人に請求するほか方法がないのであるから信義則に反することはない。なお、相続債務は算定に組み入れるべきではなく、相続税相当額も差し引くべきではない。

そうすると請求時の遺産総額は1億0908万0312円となる。浩介、被告恵介、同宗介、同伸が取得した遺産の価額が全遺産の価額に占める割合は、

浩介4410万9955円÷1億0908万0312円 = 0.404

被告恵介1585万0647円÷1億0908万0312円 = 0.145

同宗介1603万7234円÷1億0908万0312円 = 0.147

同伸1627万9009円÷1億0908万0312円 = 0.149

である。遺産総額に対して原告らが受領できる価額は1億0908万0312円×0.00144 = 15万7075円である。原告らは右金額を、法定相続分の割合によつても、遺産分割によつて取得した価額の割合によつても請求できると解すべきであり、本件においては、原告は後者によつているので、右の割合によつて計算する。

浩介に対し請求できる価額15万7075円×0.404 = 6万3458円

被告恵介に対し請求できる価額15万7075円×0.145 = 2万2776円

同宗介に対し請求できる価額15万7075円×0.147 = 2万3090円

同伸に対し請求できる価額15万7075円×0.0149 = 2万3404円

争いのない事実によれば、浩介の相続人はその子である被告裕子、同勇雄、同紀代子であり相続分は各3分の1であるというのであるから、右被告らは、それぞれ6万3458円×3分の1 = 2万1152円ずつの支払義務を負つていることになる。

七 よつて、原告らの本訴請求のうち、被告裕子に対しそれぞれ金2万1152円を、同勇雄に対しそれぞれ金2万1152円を、同紀代子に対し金2万1152円を、同恵介に対しそれぞれ金2万2776円を、同宗介に対し金2万3090円を、同伸に対しそれぞれ金2万3404円を請求する限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条本文、93条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないから却下して主文のとおり判決する。

別紙目録及び別表〈省略〉

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